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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)6328号 判決 1967年8月15日

本訴原告・反訴被告 松原秀樹

右訴訟代理人弁護士 村下武司

右復代理人弁護士 石川幸吉

本訴被告・反訴原告 山脇昭視

右訴訟代理人弁護士 木戸孝彦

同 池田映岳

主文

一、(本訴)

原告の請求を棄却する。

二、(反訴)

1、反訴被告は反訴原告に対し、別紙物件目録記載の土地につき反訴原告が横浜地方法務局昭和二八年四月六日受付第七五三五号所有権移転請求権保全仮登記に基づく本登記手続をなすことを承諾せよ。

2、反訴被告は反訴原告に対し、前項の本登記完了と同時に、別紙物件目録記載の土地を引渡せ。

3、反訴原告のその余の請求を棄却する。

事実

第一、求める裁判

一、本訴原告(反訴被告)

(一)  本訴につき

1、本訴被告は本訴原告に対し別紙物件目録記載の土地につきなした横浜地方法務局昭和二八年四月六日受付第七五三四号抵当権設定登記、同第七五三五号所有権移転請求権保全仮登記の各抹消登記手続をせよ。

2、訴訟費用は本訴被告の負担とする。

(二)  反訴につき

1、反訴原告の請求をいずれも棄却する

2、訴訟費用は反訴原告の負担とする。

二、本訴被告(反訴原告)

反訴に関する主文二2 3の部分について「反訴被告は反訴原告に対し別紙物件目録記載の土地を引渡せ」との判決を求めたほかは本訴、反訴につき主文同旨

第二当事者双方の一致した主張(争いのない事実)

一、別紙物件目録記載の土地(本件土地と呼ぶ)はもと訴外鈴木信の所有であったところ、同人は昭和二八年四月初頃、本訴被告(反訴原告。以下単に被告と呼ぶ)に対する石炭買受代金債務の担保として、同債務の弁済期を同月二〇日と定めて本件土地に抵当権を設定する旨の契約および右期限に債務を弁済できないときは、その弁済に代えて本件土地を譲渡する旨の停止条件附代物弁済契約を被告との間で締結し、被告は同月六日本件土地につき本訴請求の趣旨掲記のとおり抵当権設定登記、所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。

二、右各登記においては、被告の鈴木に対する債権額は金一〇万円と表示されている。

三、本訴原告(反訴被告。以下単に原告と呼ぶ)は本件土地につき横浜地方法務局昭和四一年五月一二日受付第一五二九二号所有権移転登記を訴外大山寿ゑから受けて、同年七月四日被告に対し前記鈴木の被告に対する債務の第三者弁済として金一〇万円を提供したが、受領を拒まれたので同月六日東京法務局に昭和四一年(金)第四〇四八四号をもって供託した。

四、原告は本件土地を現に占有している

第三、対立する主張(争点)

一、原告

(一)  本件土地は鈴木信から大山寿ゑに譲渡され、大山から原告が昭和四一年五月一一日買受けた。

(二)1、鈴木信の被告に対する債務が金五〇八万円であることは不知、本件土地の被担保債権額は登記簿に表示されているとおり金一〇万円であり、これを超える金額の債権を目的とする代物弁済予約が成立したとの被告の主張は否認する。仮に被告主張のとおり実際には金五〇八万円の債務があって、その全額を対象とする代物弁済予約がなされたとしても、原告に対しては登記簿表示の金額をもってしか対抗できない

2、したがって原告が利害関係ある第三者としてなした第二、三の弁済によって被告の経由した抵当権設定登記、所有権移転請求権保全仮登記はいずれも被担保債権が消滅し、被告は実体上の権利を失った。

3、被告の第三、二(二)の債権の発生譲渡に関する事実は不知

(三)  本件代物弁済契約の停止条件が成就したこと、もしくは被告が代物弁済予約完結の意思表示をしたことはいずれも不知。

(四)  被告の予約完結権の行使および所有権の主張は権利の濫用である。

すなわち被告の本件土地に対する権利として登記簿上はわずかに金一〇万円の債権しか表示されておらず、その弁済期から数年を経過し、かつ、本登記もなされていないから、時価二千万円に及ぶ本件土地が代物弁済で被告によって取得されているとは予測もできず、登記簿の表示を信頼し正当な取引によって所有権を取得した原告は不当なぎせいを強いられることになる。したがって被告の所為は信義則を無視し善意の第三者を害う権利の濫用である

(五)  よって原告は本件土地の所有権に基づき、被告の経由した各登記の抹消を求める。

二、被告

(一)  原告が本件土地を買い受けたとの事実は否認する。

(二)  訴外上田鉱業株式会社は訴外大和鉱業株式会社に対し昭和二七年一〇月から昭和二八年二月までに売渡した石炭の代金債権約八〇〇万円のうち金五〇八万円の債権を昭和二八年三月頃取立の目的でその東京駐在社員である被告に譲渡し、その頃大和鉱業株式会社は債権譲渡について承諾した。

被告は大和鉱業株式会社の代表取締役である鈴木信との間で、右譲受債権を被担保債権として第二、一および二のとおり抵当権設定契約、停止条件附代物弁済契約を締結し、各登記を経由した。

したがって、被担保債権額は、登記簿上は金一〇万円と表示しているけれども当事者間では金五〇八万円と約束されていた。

(三)  1、被告は右被担保債権の弁済期を昭和二八年四月二五日まで猶予することを同月一六日承諾したが、右猶予期限までに鈴木信から弁済がなかったので、本件代物弁済契約に附した停止条件は成就した。

2、仮に本件が代物弁済予約と解されるとしても、被告は昭和二八年四月二六日頃鈴木に対し予約完済の意思表示をし、さらに横浜地方裁判所昭和三一年(ワ)八三五号登記抹消等請求事件の訴状において鈴木に対し本件仮登記に基づく本登記手続を請求し、予約完結の意思表示をしたが、同訴状は公示送達によって昭和三一年一二月二五日鈴木に送達された。

(四)  原告の権利濫用に関する主張は争う

被告はその権利を仮登記によって保全し、公示してあるのに、原告は敢えて所有権を取得したとすれば、当然に被告の代物弁済契約の停止条件成就ないし予約完結を承知のうえであったと言わざるを得ない。(被告は原告が所有権を取得する以前に本件土地を取得している)しかも原告が弁済しようとする債務は原告が所有権を取得した当時すでに消滅しており、被告が代物弁済によって所有権を取得したのと本登記手続を放置していたものでないことは右(三)(2)の訴訟の提起をみても明らかである。のみならず原告は被告が鈴木信および大山寿ゑに対し本登記請求および本登記について承諾を求める前記(三)2の訴訟を提起したことを承知のうえで大山から買い受けた悪意の第三者である。

(五)  よって被告は本件仮登記の本登記手続をなすことにつき後順位のこれと抵触する登記名義人である原告に対し、承諾を求め、かつ所有権に基づいて本件土地の明渡を求める。

第四、証拠関係<省略>。

理由

一、事実摘示欄第二の各項の事実は当事者間に争いがないところである。そして<証拠省略>によれば、本件土地については、所有者であったことに争いがない鈴木信から訴外相楽金次、大山寿ゑを経て原告へ順次所有権移転登記がなされている事実(原告の所有権取得登記については争いがない)を認めることができるから、原告が所有権取得登記を経由した昭和四一年五月一二日の時点で原告は本件土地の所有権を取得したものと推定され、これに反する証拠はない。

二、争点(三)の代物弁済の成否につき検討するに、

1、被告が同一債権の担保として、同時に抵当権設定登記と所有権移転請求権保全の仮登記とを経由したことは当事者双方に争いがない事実であるから、その被担保債権額が金一〇万円であるか金五〇八万円であるかは暫くおいて、右抵当権設定の趣旨を考慮に入れると右仮登記の原因となった被告と鈴木信との間の契約は停止条件附代物弁済契約の形式をとってはいても、弁済期の徒過によってなんらの意思表示を要せず所有権が移転する趣旨とは解し難く、右契約の趣旨は、弁済期徒過後に債権者たる被告において抵当権実行の途をとるなり代物弁済の途をとるなりいずれか任意の方法を選ぶ余地を残していることに鑑みれば、いわゆる代物弁済の予約と解するのが相当であり、これを覆す証拠はない。

2、そして次に認定する被告の予約完結権行使の時までに鈴木信もしくはその他の利害関係ある第三者が被告に対し少くとも登記簿上被担保債権額として表示されている金一〇万円を弁済した旨の主張、立証はなく、かえって<証拠省略>によれば、次に認定する被告の予約完結権の時までに右一〇万円の弁済すらなかったことは明らかである

3、<証拠省略>を総合すれば、本件代物弁済予約に因る仮登記をしたのち、被告は鈴木信の懇請を容れて、被担保債権の弁済期限を昭和二八年四月二五日まで猶予し、弁済資金の調達をする機会を与えたけれども、鈴木は右猶予期限を徒過したので、その数日後、遅くも同月中に同人に対し右予約を完結し、本件土地を債務の弁済に代えて取得する旨の意思表示をしたこと、その後被告が病に臥し療養中に本件土地と同じ目的で被告が仮登記を経由していた土地の一部について、その仮登記が不法に抹消されていることが判明し、被告は鈴木を告訴したが所在不明となっており、やむなく、昭和三一年九月六日横浜地方裁判所に同年(ワ)八三五号登記抹消請求訴訟を鈴木信、大山寿ゑ外二名を相手どって提起し、鈴木に対しては本件仮登記に基づく本登記を、その他の者に対しては仮登記に隠れた各人の経由している登記の抹消を求めそのうち鈴木に対する本登記請求は公示送達によって審理され、昭和四一年一二月六日勝訴判決を得、すでに確定していることが認定でき、反対の証拠はない。

これによれば被担保債権額が原告主張のいずれであるにせよ、被告が遅くも昭和二八年四月末日までになした予約完結の意思表示によって、鈴木との関係では代物弁済として本件土地は被告の所有に帰したことは明らかである(鈴木以外の第三者に対しては、所有権取得の登記がなければ、対抗できないことは後に蝕れるとおりである)。

したがって鈴木の被告に対する債務もその金額がいずれであるにせよ右予約完結権の行使に因って消滅したことになり、それ以後になした原告の弁済の提供、供託もまたなんらの効力を生じないものであることは言うまでもない。

三、原告は争点(四)のとおり被告の代物弁済予約完結による所有権取得の効力を争うけれども、<証拠省略>を総合すると、被告の被担保債権額は登記簿上では金一〇万円と表示しているけれども、それは登録税の負担を免れる意図の下に故意に過少な金額で登記申請手続をしたからであって、被告と鈴木信との間で成立した代物弁済予約では、被担保債権は被告が上田鉱業株式会社から取立のために譲渡を受けた同会社の大和鉱業株式会社に対する石炭売掛代金債権のうち約五〇〇万円の債権であったことを認めることができ、反対の証拠はない。したがって被告が金一〇万円の債務の弁済を代えて本件土地を取得したものでないことは明らかであり、また被告が本件仮登記に基づく本登記をしなかったからといって原告主張のように権利濫用と目すべき理由もない。かえって前示のとおり被告は昭和三一年中に鈴木に対しては本登記手続をまた被告の仮登記に遅れる大山寿ゑ等に対してはその経由せる各登記の抹消を訴求しており、原告は右訴訟係属中に大山から本件所有権取得の登記を経由したものであるため本件反訴で被告が勝訴判決を得なければ、本登記をなし得ない立場におかれていることは、その登記の先後関係と不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項の規定に徴して明らかなところである。

したがって原告の権利濫用の主張はとうてい採用の余地はない。

四、以上のとおり判断されるから、原告の本訴請求は理由がないものとして棄却すべく、被告の反訴請求のうち本登記手続について承諾を求める部分は正当として認容すべきものであるが、反訴請求のうち所有権に基づいて本件土地の引渡を求める部分は、原告が現に所有権に基づき占有していること前示のとおりであるから、被告は仮登記のままでは本件土地所有権を原告に対抗できず、本登記をした時にはじめてその所有権を原告に対抗できるものと解するのが正当である。

しかして原告が被告の所有権を争うものであるからには、被告において将来の給付請求として本登記完了と同時に引渡を求める必要があることは明らかでありかつ右請求にはかかる給付を求める趣旨も包含されていると解されるので、右の限度で認容し、その余すなわち即時の引渡を求める部分は失当として棄却することとし、<以下省略>。

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